上告とは
第一審の裁判に不満があるときは、高等裁判所に不服を申し立てる「控訴」ができますが、同じように、高等裁判所がした判断に対して不満がある場合には、さらに上級の最高裁判所に不服を申し立てることができます。これが「上告」です。
上告審は、「最高裁判所」が担当します。
上告ができる場合
1 法律で定められた上告理由
最高裁判所は、実際に事件があったかどうかを調べることより、誤った法律の使い方をしていないかをチェックし、日本の裁判所全体での法律の解釈を正したり、統一したりすることが主な役割です。
したがって、基本的には上告できる場合は次の①~③のときに限られています。
- ① 高等裁判所の判断が憲法に違反し、または誤った憲法の解釈をしていること
- ② 高等裁判所が、最高裁判所が以前に出した判例と違う判断をしたこと
- ③ 最高裁判所の判例がない事件について、高等裁判所が、戦前の最高裁判所にあたる裁判所の出した判例などと違う判断をしたこと
2 上告の理由がなくとも、最高裁判所が審理できる場合
⑴ 法律の解釈に問題がある場合
最高裁判所は、日本の裁判所全体での法律の解釈を統一する役割を負っていますので、憲法違反などでなくても、法律の解釈について重要な問題があると考えられる事件では、自分の判断で事件を受理して解決することが認められています。
これを「上告受理制度」といいます。
⑵ その他最高裁判所が、自分の判断で高等裁判所の判決を取り消す場合
第一審・控訴審ともに裁判官が誤った判断をしてしまったときには、もはや救済できるのは最高裁判所しかありません。
もし、第一審・控訴審の裁判所が誤った判断をしており、これらの出した判決を取り消さなければ極めて問題があるような場合には、自らの判断でこれまでの裁判を取り消すことが認められています。
これを「職権破棄(しょっけんはき)」といいます。
職権破棄が認められるのは、以下のような場合です。
- ① 判決の結果を左右するような法律上の違反があるとき
- ② 言い渡された刑が重すぎる、または軽すぎるとき
- ③ 裁判所が認めた事実に、判決を左右するとても重大な誤りがあるとき
- ④ 証拠が偽造であることが別の裁判で認められた場合など
- ⑤ 判決があった後に、法律が改正されるなどしてその刑が廃止された場合
ただし、これらの事情によって高等裁判所のした判断を取り消すかどうかは最高裁判所が自由に決めることであり、実際には、被告人や弁護人からこのような事実があるとして上告をしても、認めてもらうことは極めて困難です。
上告をする方法
上告を申し立てる方法は、控訴とほぼ同様です。
控訴審の判決が言い渡されてから、14日以内に、最高裁判所に宛てた「上告申立書」を、高等裁判所に提出します。
申し立てをしてから約2ヶ月後までに、なぜ上告をするのか、その理由を書いた「上告趣意書(じょうこくしゅいしょ)」の提出を求められますので、指定された日までに提出します。
上告審の裁判の方法
1 裁判官はどのように構成されているのか?
最高裁判所は15人の裁判官がいますが、常にこの15人全員で裁判を行っているのではなく、各5人ずつで3つの法廷に分けられ、この法廷ごとにそれぞれ事件を担当しています。
この3つの法廷のことを「小法廷(しょうほうてい)」といい、事件の審理で、憲法に関係する判断をする場合や、以前に最高裁判所自身がした判断と異なる判断をする場合には、15人全員が集まって判断を下します。
この15人が集まった法廷を「大法廷(だいほうてい)」といいます。
2 最高裁判所では、法廷が開かれない
上告審は、主に法律違反があったかどうかを検討するところであって、どのような事実があったか調べる場所ではありません。
したがって、法廷は一度も開かれず、書類のやり取りだけで審理がすすめられます。
裁判所に被告人や証人、弁護人が出廷することは通常はありません。
上告審で出される判断
控訴趣意書と高等裁判所から送られた記録を最高裁判所の裁判官が検討し、上告できる理由があるか、あるとした場合に高等裁判所の判決を取り消すべきかを判断します。
1 「上告棄却(じょうこくききゃく)」
形式的には上告の理由がありそうだが、実質的には上告できる場合ではない事件では、事件の内容について詳しく検討しないまま、上告を認めないとの判断をします。これを「上告棄却(じょうこくききゃく)」といいます。
無理やり「憲法違反」にこじつけて上告しているなど、そもそも上告できる場合に当たらないときなどには上告が棄却されることになります。
2「破棄」「差し戻し」
高等裁判所が憲法に違反した判断をしたり、過去の最高裁判所の判例と違う判断をしたりした部分があったなど、上告の理由が認められるときは、高等裁判所がした控訴審の判決を取消します。これを「破棄(はき)」といいます。
最高裁判所は法律の解釈をまとめるのが主な役割であるため、証拠などを調べる能力がありません。
そこで、破棄した場合には、証拠などを調べる能力のある高等裁判所や地方裁判所に事件を戻し、もう一度裁判をやり直すように命じます。これを「差し戻し」といいます。
上訴審の判断に対する不服申し立て
最高裁判所は、文字どおり日本の裁判所の頂点にありますから、ここで出された判断をさらに争うことは原則できません。
しかし、最高裁判所の裁判官も人間であり、間違った判断をする場合がありますので、最高裁判所が、上告に対して「判決」を出した場合は「訂正の判決」の申し立て、判決ではなく「決定」を出した場合は「異議申し立て」という再審査をお願いする機会が与えられています。
もっとも、現実には、これらの不服の申し立てが認められることはほぼありません。
訂正の判決の申し立ては、最高裁判所から判決を言い渡されてから10日以内、異議申し立ては、決定の言い渡しをされてから3日以内にしなければいけません。
最高裁判所から判決を受けてこれらの不服を申し立てないままこの期間を過ぎたときや、訂正の判決・異議の申し立てをしたけれども、認められなかったりすると、第一審から続けてきた裁判がついに確定することになります。