Q.不起訴って何ですか?不起訴と起訴猶予の違いを教えてください。
1 起訴とは
日本では、裁判所が勝手に裁判を開くことはできません。検察官が裁判所に対し、ある人物が起こした事件について審理してほしいと申し立てることで、初めて裁判が行われます。この検察官の申し立てを「起訴」(または「公訴の提起」)といいます。
日本では、検察官にだけ、この起訴をするかどうか決める権限が与えられています。
2 不起訴と起訴猶予
「不起訴」とは、起訴するかどうかを決める権限を持っている検察官が、「今回の事件については起訴しない」と決めることです。
そして、検察官は、事件があったことを証明できないときのほか、ある被疑者の方が事件を起こしたことが証拠で認められる場合であっても、その人の性格や年齢、境遇、事件が重大かどうか、被害者の方に謝罪や弁償をしたかどうか、反省しているかなどを考慮し、あえて刑罰を与える必要がないと判断した場合に不起訴とすることが認められています。
このような理由で不起訴とすることを「起訴猶予(きそゆうよ)」といいます。
したがって、「起訴猶予」は「不起訴」のうちの一つといえます。
Q.事件が不起訴になれば、前科は付きませんか?
前科とは一般に「裁判所で有罪の判決を言い渡されたこと」をいいますが、不起訴となった場合は、裁判が行われないことになりますから、前科は付きません。
もっとも、不起訴になったとしても、被疑者として取り扱われたという記録は都道府県警察や検察庁のデータベースに残っていますので、前歴として残ることになります。
Q.性犯罪で逮捕されました。本件は不起訴になりますか?
被害者の方と示談が成立した場合には不起訴になる場合があります。
1 条例違反の痴漢・盗撮事件の場合
痴漢事件や盗撮事件で、各都道府県で定められている「迷惑行為防止条例」(またはこれに類する条例)違反とされた場合、被害者の方に謝罪し示談が成立し、「刑事処罰は望まない」という意向を頂戴できれば、不起訴となる可能性があります。
しかし、同じような前科がたくさんあるようなときは不起訴とならないこともあります。
2 刑法で定められた性犯罪の場合
痴漢でも、刑法に定められた「強制わいせつ」という罪にあたる場合には、被害者の方の「告訴」がなければ検察官は起訴できません。このように、被害者の方の告訴がなければ起訴できない罪のことを「親告罪(しんこくざい)」といいます。親告罪には、他に「強姦罪」も含まれます。
親告罪では、被害者の方によって告訴が取り消されれば検察官は起訴できませんので、必ず不起訴になります。
しかし、性犯罪の中でも、強姦をした結果けがを負わせる「強姦致傷罪」や、集団で強姦する「集団強姦罪」は親告罪ではありませんので、被害者の方が告訴を取り消したとしても法律上は起訴できます。そして、これらの犯罪は極めて悪質ですから、被害者の方が刑事処罰は望まないとの意向を示してくださっても、不起訴になることはほぼありません。
3 18歳未満の青少年と性交渉をした場合
青少年と性交渉を行ったことで、都道府県の青少年健全育成条例違反や児童買春として逮捕された場合には、青少年の健全な育成を目的として刑罰が定められていますので、仮に相手の青少年の保護者の方が許すといってくれても、処罰の必要性は残っています。
したがって、初犯で示談ができても、刑事処分が下される場合が多いようです。
Q.暴行事件で逮捕されました。本件は不起訴になりますか?
被害者の方のけがが軽かった場合などは、示談が成立して被害者の方に許していただければ、不起訴になることがあります。
しかし、集団で暴行を加えた場合、武器を使っている場合、被害者の方のけがが重かった場合など悪質・重大なものであれば、仮に示談が成立しても起訴されることがあります。
いずれにせよ、自分が起こした暴行事件で不起訴となるには、被害者の方へきちんと謝罪をし、治療費や慰謝料を支払うなどの誠実な対応をして、被害者の方に許していただくことが必要です。
Q.身に覚えがない事件で逮捕されました。本件は不起訴になりますか?
身に覚えがない事件でも、人違いで逮捕されてしまうことがあり得ます。
犯人ではない人を起訴すれば冤罪になってしまいますから、捜査をした結果人違いであると分かると、検察官は犯罪の立証ができない、または立証が不十分であることを意味する「嫌疑なし」「嫌疑不十分(けんぎふじゅうぶん)」という理由で、不起訴とします。
「嫌疑なし」「嫌疑不十分」で不起訴になるためには、取り調べで最初から犯人ではないとはっきり主張するとともに、弁護人などにもそれを伝え、自分が犯人ではないことを示す証拠を探してもらうよう、接見で相談しましょう。
Q.アトムが取り扱った過去の事件で、不起訴になった具体例を教えてください。
アトムでは多くの事件で不起訴を勝ち取っています。
1 性犯罪の場合
条例違反とされた痴漢・盗撮事件では、逮捕されてすぐにご家族のご依頼で接見に行き、身柄を解放した後に被害者の方と示談を締結して起訴猶予となった事件が多数あります。
親告罪の事件でも、未成年者に対する強制わいせつ事件で逮捕直後から受任し、起訴される前に、被害者ご本人と被害者ご両親から告訴の取り消しを得た事件をはじめとして、起訴される前に告訴を取り消してもらい、不起訴になった事件が多数あります。
2 暴行・傷害事件の場合
タクシーの運転手の方を殴って骨折させてしまった傷害事件で、治療費と慰謝料、休業損害を支払って示談をまとめて不起訴となった例や、電車の中でのトラブルで乗客を殴ってけがをさせてしまった事件で示談をまとめて不起訴になった例があります。
3 交通事故の場合
交通事故で、被害者の方に対して謝罪を尽くした結果、被害者の方から寛大な処分を望むとの嘆願書が提出されて不起訴になった事件があります。
4 薬物事件の場合
被害者のいない薬物事件でも、逮捕後すぐに受任し、取り調べでの対応を接見で綿密に打ち合わせ、最終的には所持していた薬物が本人のものではないとして不起訴になった事件や、所持していた大麻がとても少なかったことから、前科がないことを考慮してもらって不起訴になった、という事件があります。