控訴とは
裁判を行う裁判官も人間ですから、誤った判断をすることがあり得ます。
そのようなときのために、上級の裁判所に裁判を見直してもらう機会があたえられています。
このうち、ある事件について「地方裁判所」または「簡易裁判所」で初めて行われた裁判(第一審)について、その見直しを求める手続のことを「控訴(こうそ)」といいます。
控訴では、「高等裁判所」がその審理を担当します。
控訴ができる場合
どんな場合にも控訴ができるわけではなく、法律で控訴できる場合が定められています。
もし第一審の裁判手続が間違っていたとしても、それが結論に影響しない場合には、控訴が認められないこともあります。
1 必ず控訴できる場合
① 第一審で、法律に従った裁判官の揃え方をしなかったとき
② 法律で、その事件に関わってはいけないとされた裁判官が関わったとき
③ 第一審の裁判が、一般の人たちに公開されていなかったとき
④ 違う裁判所が担当すべき事件を間違って扱ったとき
自分たちの裁判所が担当すべき事件を扱わなかったとき
⑤ 裁判所が、受理できないはずの検察官の起訴を受理したとき
裁判所が、受理しなければならない検察官の起訴を受理しなかったとき
⑥ 検察官が裁判を求めた事実について、判断を下さなかったとき
検察官が裁判を求めていない事実について、判断を下してしまったとき
⑦ 判決の理由を書かなかったとき
理由は書いてあるけれども、判決の結論と食い違いがあったとき
⑧ 証拠が偽造であることが別の裁判で確認されたり、新たな証拠が見つかったとき
2 判決の結論に影響があるときに限って控訴できる場合
以下の場合は、単にこれらの事情があるだけでなく、その事情が第一審の判決の結論に影響するときに限って、控訴が認められます。
- ① 第一審の手続に、法律上の違反があったとき
- ② 判決を導くための法律の使い方を間違っていたとき
- ③ 裁判所が間違った事実を認定したとき
3 その他控訴が認められる場合
- ① 言い渡した刑が重すぎたり、または軽すぎたりしたとき
控訴の方法
1 控訴の申立て
控訴したいときは、その意思を示す「控訴申立書」を、判決をした第一審の裁判所に提出します。
これは、判決を言い渡されてから14日以内にしなければいけません。
控訴の申し立ては、被告人の方ご自身でもできます。
もし実刑判決となってしまったときは、拘置所に控訴申立書が備え付けてありますので、これを提出します。
2 「控訴趣意書」の提出
「控訴申立書」はあくまでも控訴しますという意思を示しただけで、どのような理由で控訴をしたいのかは書いてありません。
そこで、控訴申立書を提出すると、今度はどのような理由で控訴をするのかを説明した書面の提出を求められます。
この書面を「控訴趣旨書(こうそしゅいしょ)」といいます。
控訴を申し立ててから約2カ月後くらいの日を「控訴趣意書」の提出日と指定されますので、その日までに提出しなければなりません。
3 「控訴棄却の決定」
もし判決から14日間を過ぎてしまってから控訴の申立てをしたときや、指定された日までに「控訴趣意書」を提出しなかった場合、その他控訴を申し立てる方法が明らかに間違っている場合などには、裁判が開かれないで「控訴を認めない」との判断(決定)がされ、第一審の裁判がそのまま確定してしまいます。
これを「控訴棄却(こうそききゃく)の決定」といいます。
控訴審での裁判
控訴の申し立ての手続に問題がなかった場合には、高等裁判所で控訴審が開かれます。
控訴審は、原則として第一審で判決が下されたプロセスに誤りがないかをチェックするもので、第一審のような裁判を一からやり直すというものではありません。
したがって、裁判の方法が第一審のときと違う部分があります。
1 裁判の開始
被告人の方に対する「人定質問」や、検察官による「起訴状朗読」などは行われません。
まず、控訴を申し立てた側が、事前に提出している控訴趣意書の内容を法廷で述べます。
相手方は、控訴趣意書で述べられた主張に対する意見を述べます。
2 事実の取調べ
裁判所は、控訴趣意書に書いてあることがらについて、証拠を調べなければなりません。
これには、こちらから請求して調べてもらう場合と、裁判所が自分の判断で調べる場合があります(もっとも、こちらから請求する場合は、第一審で取り調べることができなかった理由が説明できなければなりません)。
3 被告人の出席
控訴審では、第一審と違い、法廷に行かなくても裁判が開かれます。
4 控訴審での結果
⑴ 第一審の判決に誤りがなく、控訴は認められないと分かった場合
裁判の結果、第一審の裁判手続や、判決の内容に間違いがないと分かったときは、控訴を認めないという意味の「控訴棄却(こうそききゃく)の判決」をします。
⑵ 第一審の判決に誤りがあるなど、控訴を認めるべきと分かった場合
第一審の判決に誤りがあると分かった場合や、第一審の判決の後に被害者と示談ができるなど事情が変わったため、判決の内容を変える必要がある場合は、第一審の裁判所で言い渡された判決が取り消されます。
これを「破棄(はき)判決」といいます。
第一審の判決を「破棄」して取消したら、改めて新しい判決をしなければなりません。
法律上は、本来担当すべき第一審の裁判所に再び事件を戻して裁判をやり直させるのが原則です。
これを「差し戻し」といいます。
しかし、ほとんどの場合は、そのまま控訴審を担当した高等裁判所が、自分の適切と考える判決を言い渡します。
これを「自判(じはん)」といいます。
⑶ 「不利益変更の禁止」
被告人の方のみが控訴をした場合は、裁判所は被告人の方に対して、第一審よりも重い刑を与えたりしてはいけません。
したがって、被告人の方が控訴したが、検察官の側から控訴がなかった場合、第一審の判決よりも重い判決が控訴審で言い渡されることはありません。
逆に、検察官が控訴した場合には、第一審の判決が破棄されて、その後に第一審より重い判決が言い渡されてしまうおそれがあります。