Q.刑事事件において、被害者と示談をするメリットを教えてください。
1 捜査の途中の段階
示談をしたということは、加害者側からすれば事件について隠しだてするつもりがないことを示し、被害者側からすれば刑事処罰を望まないことを示すことになります。
従って、刑事事件化の阻止や、警察による逮捕を回避できる可能性があります。
もし事件化されていたとしても、検察官はあえて処罰をする必要がないとして、起訴しない場合があります。その場合には裁判が開かれず、前科が付かないことになります。
2 刑事裁判が始まった後の段階
裁判を行うことになっても、被害者の方と示談ができていれば、被害が回復されたという重要な証拠になるので、執行猶予の判決がもらえる可能性が高まります。
Q.示談に種類やタイプはありますか?どのような示談が一番よいですか?
示談には、以下のタイプがあります。
① 民事上の示談 謝罪と弁償をして、以降はお互いに紛争にしないと合意するもの
② 刑事上の示談 民事上の示談に加え、さらに「許す」という条項を盛り込むもの
(この「許す」という条項を、「宥恕条項(ゆうじょじょうこう)」といいます)
③ 被害届取下げ 刑事上の示談に加え、被害届を取り下げてもらうもの
④ 告訴取消 刑事上の示談に加え、告訴を取り消してもらうもの
告訴や被害届が出ている事件では、③または④の示談が一番良い示談といえるでしょう。
それ以外の事件でも、よい結果を得るためには最低限「宥恕条項」の入った示談が必要です。
Q.示談をしなければ、逮捕されますか?
示談しなければ必ず逮捕される、という関係にはありません
しかし、示談がまとまっており、被害者の方が「刑事処罰は望まない」という意向を示された場合には、警察もことさら立件する必要がなくなりますので、重大犯罪でなく、身元引受人がきちんといれば、逮捕を回避できる可能性が高くなります。
Q.示談をしなければ、起訴されますか?
被害者の方のいる犯罪であれば、被害者の方が許しているかどうかは、検察官が起訴するかどうかを決める上で大変重要な決め手になります。
被害者の方が処罰してほしいと望んでいるような場合には、示談が成立していなければ、起訴されてしまうことが多いでしょう。逆に、示談がまとまっており、被害者の方が「刑事処罰は望まない」という意向を示されているような場合には、事件の性質や前科の有無にもよりますが、起訴されなくなる可能性が高まります。
示談をしないと必ず起訴されるわけではありませんが、確実に起訴を回避したいのであれば、できるだけ示談を締結した方がよいといえます。
Q.示談をすれば、刑事事件はなくなるということですか?
示談の効果は、被害者の方の損害が回復されたことで、処罰してもらいたいという気持ちがやわらいだため、検察官が刑事処分を下されなくなるというものです。
あくまでも、事件があったことを前提として謝罪と賠償をし、以降お互いに争わないこととして被害者の方に許してもらうものですから、事件自体がなくなるわけではありませんが、実質的には事件がなくなったのと同様の効果を得ることができる場合があります。
Q.特に示談を締結した方がよい類型の事件があれば教えてください。
一般に、被害者の方がいる事件では、示談を締結することは良い結果につながりますので、可能な限り示談を締結した方がよいでしょう。
1 親告罪の場合
「親告罪(しんこくざい)」といって、被害者の方の告訴がなければ起訴できない犯罪があります。具体的には「強制わいせつ罪」や「強姦罪」の他、他人の物を壊したという「器物損壊罪」、不注意で他人にけがをさせた場合の「過失傷害罪」などです。
この「親告罪」にあたる事件では、示談をして告訴を取り消してもらえれば必ず起訴されなくなります。
したがって、親告罪の事件では特に示談して告訴を取消してもらうことが必要です。
2 親告罪ではないものの、被害者がいる場合
親告罪ではないが被害者がいる事件でも、示談をすることで良い結果につながります。
特に、痴漢や盗撮、窃盗や詐欺など、もっぱら個人の利益を侵害する事件では、示談をすることで、逮捕や起訴を回避できる場合がありますので、可能であれば示談をした方がよいといえます。
3 交通事故の場合
交通事故で示談できているかどうかは、起訴・不起訴や、裁判で実刑になるか執行猶予が付くかの判断をする上で、非常に重要なポイントになります。示談が成立してさえいれば起訴されなかった、もしくは執行猶予で済んだ、ということもありますので、刑事事件としての処分が出る前のできるだけ早い段階で示談を締結しておく必要があります。
もっとも、交通事故の損害は、自動車損害保険でまかなわれることが一般的ですし、直接の示談交渉は保険会社の担当者が行うことになります。また、死亡事故や重傷事故で示談を急ぎすぎると、被害者側の感情を逆なですることもあります。したがって、その進め方については、弁護士に相談するのがよいでしょう。